新しいITシステムを導入する、既存のITシステムを新しいものに入れ替える場合、既存業務フローの流れを変更したり、マニュアルを作り直したりする必要があると思います。
経験上、新ITシステムを導入するときは、それらを利用する社員、職員、従業員の方々は、まるでスマートフォンの新機種が出た時のような反応をします。
一定数のアーリーアダプターは導入に積極的でむしろ遅すぎるくらいの反応をしてくれる一方で、既存のシステムを活用している方は、導入に否定的になります。
賛否両論ある中でも、情報システム部門の選択と経営者の意思決定によって決まった新システムは、できるだけ利用者全員がハッピーな状態で導入しなければ、その効果を最大化できません。
しかし、ビジネス上の決定だからといって、論理的で左脳的な判断のみで導入しようとしても、そこには利用者の感情が伴うので、その感情を汲む必要があります。
NTENのサイトで「
どのように新システムを導入するか」という動画が公開されており、スピーカーがユニークな説明の仕方をされていたので、私の意見を踏まえて説明します。
エリザベス・キューブラー・ロスは、1969年の著書「死ぬ瞬間」で死の受容プロセスとして「悲嘆の5段階」というものを公開しています。
新システムの導入を受け入れることは、死と比べると小さい壁ですが、そこには心の障壁を取り払っていくための似たようなプロセスが存在します。
第1段階「否定 - Denial」
「新しいシステムなんて必要ない。今ので十分業務は回っているじゃないか?」
「古いシステムも使いこなせてないので、新しいシステムなんか使えない!」
まずは、こういう声が聞こえてきます。新システムに対する否定的な意見ですね。
これには、トップの意思決定を明確化することで対応します。
組織のトップが、「なぜ」「どういうプロセスで」新システムを入れ替えるに至ったか、というのを全従業員に周知します。
組織のトップが明確な指針を示すことにより、経営判断の一つの手段として、このシステムを導入するんだという共通理解を持ってもらうことが必要です。
また、導入する側としては、トップの経営判断という大義名分を持って導入作業に取り組めるので、否定的意見をうまくかわしつつ、作業を進めることができるようになります。
第2段階「怒り - Anger」
「なんでこの忙しい時期に新しいシステムに切り替えるの?」
「こんな面倒臭いシステム使えっこないだろう!」
否定をかわされた方は、怒りに任せます。
これには、具体的な導入プロセスを明示することで対応します。導入前から導入プロセスの情報を積極的に公開します。
例えば、いきなり公開直前にマニュアルを提示するのではなく、導入決定直後に新システムのパンフレットレベルの概要やカタログスペック、導入スケジュールを事前に提示します。
また、キーマンがこの段階にいる場合は、積極的に導入プロセスに参画させましょう。
システム選定時に参画できれば、それが一番いいでしょうし、それが無理でも導入プロセスで部門の導入担当者にする他、会議に出席してもらう、などして巻き込みましょう。
第3段階「取引 - Bargaining」
「分かった。じゃあ新システムを使うから、昔のシステムを使ってもいい?データは両方に入れるから」
「私の業務は例外扱いにしてもらってもいい?理由は・・・・だから」
怒りが通じなかった場合は、取引をします。
新システムを受け入れるという重荷は背負うので、代わりにこれは許して!というものです。ここまで譲歩したんだから、そちらも譲歩しなさいよ!というスタンスです。
これには、社内規程を設定し、従ってもらうようにしましょう。
ここで社内規程というのは、社内における法律のように従業員は従う必要があり、場合によっては罰則規定もあるようなポリシーやルールのことです。
そういうものが組織の中にあれば、どんどん活用しましょう。社内で仕事をする以上、新システムを使用せざるを得ない、そうしないと業務が回らなくなるようなルールに変更していきましょう。
第4段階「落胆 - Depression」
「なんかやっぱり古いシステムの方が良かったなぁ・・」
「古いシステムが懐かしいなぁ・・」
この段階になると、既にルールが決まり、導入が始まっている段階です。
実際に新システムを使用している中で、旧来のシステムへの懐古が始まります。
使いにくいなぁ・・・やりにくいなぁ・・・
そこで必要なのが、厳然たる事実です。
つまり、新システムにしたからこれだけ数字が良くなった、効率化指標を上回った、という導入を肯定する事実を公表しましょう。
ビジネス上のインパクトがあり、利益が上がり、個々人の評価につながっていることを実感してもらうことで、新システムを使用するモチベーションを上げてもらいましょう。
第5段階「受容 - Acceptance」
ここまで来ると、新システムが導入し、社内業務の中でうまく回っている状態です。
もはや昔のシステムに戻ることができないし、新システムがない業務処理はできない状態です。
ここで初めて、新システムが導入されたといえるでしょう。
もちろん、受容という言葉が表すように全員が満足した形で受け入れているわけではありません。押し切られた、と感じる方もいるかもしれません。
そういう方々のフィードバックは積極的に受けましょう。次の新システム導入時の参考になります。
いかがでしょうか?
私は仕事として新しいシステムを常に提案し、お客様の経営判断を促し、システムを購入してもらう立場にあります。
昔は、システムを売れればOKというビジネスでしたが、今は導入の過程で一緒に汗をかき、アフターサポートまで行う必要があるため、新システムを導入する立場の方たちの御苦労は非常によくわかります。
新システムを導入する場合は、どの担当者も同じ悩みにぶつかります。それが上記の5段階なのです。みなさん同じ悩みを持ちながら、日々の導入作業を行っているのです。
新システムの導入という、業務のIT化は必ずビジネスに大きな影響を与えるので、ぜひ頑張っていきましょう!